【北アルプス】唐松岳1泊2日 撤退
6月最後の週末、北アルプス唐松岳に登りに行くことにした。梅雨の時期だったが降りそうで降らない天候が続いていたので登れるんじゃないかという期待が勝ったのだ。
後立山連峰は大雪渓から白馬岳、白馬大池のルートを踏んだだけである。この時期はまだ雪も残っているようだ。
ネットで二週間前から八方尾根の残雪状況をチェックしていた。丸山ケルンから先はピッケルと前爪のあるアイゼンが必要な状況だった。重たい冬靴を履くのが億劫だったので軽アイゼンでなんとかならないものかと往生際悪く出発の前日に山荘に電話をかけルート情報を聞いてみる。やはり冬装備で行くこととなった。新調したばかりのグレゴリーの38Lのザックに防寒具、ツェルト、アイゼンを詰め込む。チェーンスパイクも荷物に加えた。流石に冬靴はザックにら入らないだろうと思っていたがすっかり収まった。グレゴリーのザックは生地が伸びるので38Lでもうまく使えばテント泊もできそうだ。
八方池山荘か唐松岳頂上山荘かどちらに泊まるか迷ったが残雪と天気が心配だったのでリフトを降りたすぐ側にある八方池山荘に泊まることにした。往路は南小谷行きのあずさ3号を使い新宿から白馬まで一直線でいく。白馬駅からは八方尾根スキー場まで歩いて30分。夏は良い時刻にスキー場へのバスがあるのだが今はない。今日は山荘に行くだけなのでのんびりと歩く。スキーシーズンが終わり夏山にもまだ早い白馬は閑散としていた。空は厚い雲に覆われて一雨来そうな具合だった。ゴンドラ駅に到着してチケットを買う。ゴンドラとリフトを3回乗り継げば今日の行程は終わり。乗り場のおじさんと上は雨が降っていそうだと話した。チケットにハサミを入れてもらいゴンドラリフトアダムに乗り込んで上がっていくと言葉通り雨が降り始めた。降っていそうだなんて言わなきゃ良かったかもしれない。ゴンドラを降りてから雨具を着込む。乗り継ぎのリフトは屋根なしだ。幸い風がなかったので傘を差してリフトに乗れた。足下にハクサンコザクラが沢山咲いていた。タニウツギが鮮やかに右手の丘を飾っている。時間はたっぷりあったので途中の黒菱から八方池山荘まで歩いてみようかと思ったら6月まで散策ルートは閉鎖だった。大人しくリフトに乗った。降りた目の前に八方池山荘はあった。一度山荘に入ってしまうと雨降る外に出ない自信があったので黒菱に続くルートを少しだけ覗く。あまり花はなかったがミヤマナラが繁っていた。関東にはなく東北の日本海の山域に多くあるナラだ。だいぶ移動したなという気持ちになる。
山荘入口で4人連れの年配女性に会う。八方池まで散策したが雨に遭い降りてきたそうだ。雫を玄関先で払っているとスタッフの女性がどうぞ中へと声をかけてくれる。乾燥室に雨具を干すと畳敷きの4人部屋に案内された。この部屋は今日は私一人きりだ。お客は玄関先で会ったご婦人方しかいないとのこと。雨の予報で登山の時期も外したこんな日にここへ来る物好きは少ないようである。部屋にはコンセントがあり充電はすきに出来るようである。枕には紙のカバーが付いていた。いつもは持参した手拭いを枕カバー代わりにしているがありがたく使わせてもらうことにした。
荷物を整理しパイプ椅子と長テーブルがある食堂に移った。売店で缶ビールを買う。食堂に所狭しと並べられた漫画と雑誌の中から山と渓谷を引っ張り出して読みふける。ビールがなくなったのでスキットルで持ってきた焼酎をお湯で割って飲む。水とお湯は宿泊客は無料で使える。食堂に電気ポットを置いてくれているので早立ちしてもお湯をもらっていける。しかも、この山荘はなんと風呂まである。入浴時間は16時からとなっていたが早めに支度が整ったので先客の女性陣はすでにお湯を借りていた。夕飯前に私も汗を流す。風呂場はひとつで札をかけて男女入れ替えで使う。ボディーソープは設置されているがシャンプーはなし。それでも山で風呂は十分に贅沢だ。
17時、外は雨が太くなっている。天気予報をチェックすると明日はやはり雨。雷注意報も出ている。夕飯時ゴンドラの職員と隣り合わせになった。電源を落とすのが上の施設でないと出来ないので今晩は山荘泊まりだと言っていた。なかなか大変である。ゴンドラが雨で止まらないか聞いてみると余程の雨でない限り大丈夫だが、風と雷で運転中止になる場合があるという。ゴンドラを使わずにスキー場を歩いて下るルートを聞いてみたが今の時期、放牧がありかなり迂回をして降りなければならないと判明した。天気が荒れれば山荘に閉じ込められかねない。月曜には仕事もある。どうしようか。
夕飯は鯖味噌、豚トロ焼き、天ぷら、南瓜の煮物、身欠きニシンとフキの炊き上げ、野澤漬け。小鍋も付く。かなり豪華だ。南瓜の煮物はここ数年で食べた中で一番美味しかった。柔らかくふっくらしていて味もほどよく染みている。夏場泊まり客が多いとバイキング形式になるという。自炊でなく食事付きにして良かった。夕飯時に明日の弁当をくれる。私は寝起きすぐ食べられないのでこうして弁当にしてもらうことが多い。晴れている時は見晴らしの良い場所まで歩いてからお茶を煎れのんびり弁当を食べるのが好きである。
明日、雨が弱まるようならピストンで唐松岳まで行こう。携帯の目覚ましを4時にセットし20時には床に着いた。暑かったので部屋の窓は少し開けておいた。
しらじらと夜があけたが昨日と変わらずの雨。まずいことに風も出てきているようだ。布団に潜ったまま登るかやめるか考える。携帯を見る。天気予報では大雨と雷注意報が出ていた。雨で雪渓の状態がどうなっているのかわからない上、遮るもののない稜線で雷に遭うのは相当に怖い。5分もしないうちに二度寝をすることに決める。窓の外を見るとうっすら雪が積もっている。なんだやっぱり行かなくて正解だなぁと思ったら夢だった。6時になりとりあえず布団から出る。どうしようか。このまま降りるのもつまらない。何よりリフトも8時半まで動かない。雨は強いが雷はまだのようである。八方池までなら2時間もしないで帰って来られそうなので植物観察がてら歩いてみることした。身支度を整えサブザックに行動食、水、ツェルト、ヘッドランプを突っ込み外へ出てる。しかし、雨が強い。岩がゴロゴロしている直登のルートと木道のトラバースルートが山荘の脇から伸びている。直登のルートで登ることにした。季節が早いので花はほぼなかった。すぐに八方山ケルンにあたる。カメラのレンズに着いた水滴を拭いながら足元に咲いていたウスユキソウを撮る。八方尾根にはハッポウウスユキソウという固有種があるので期待する。あとで調べてみよう。風があるので雨は横から頰を叩いてくる。こうなるとレインウェアをしっかりと着込んでも少しずつ首回りから濡れていく。気温は低くなく動いているとちょうど良いくらいだ。展望案内板がある場所にきた。雲の中にいるので当然何も見えない。晴れていれば白馬岳が綺麗に見えたはずである。「何も見えん!」大声で叫んだ。東京駅のど真ん中で叫んだら迷惑だろうが今この稜線にいるのは私ひとりくらいだ。普段やれないことをするのは気持ちが良い。身軽に出てきたので八方池には瞬く間に着いた。池と言うか雪渓だった。花もない。そして眺望もないのでUターンで戻ることにした。登山道は沢になっている。トラバースの木道は雨で滑りそうだ。靴のソールはビブラムなので岩の方がフリクションが効く。復路も岩ゴロの道を帰ることにした。
山荘のひさしの下でレインウェアを脱ぐと上は浸水して濡れてしまっていた。ズボンの方は無事だった。首に手拭いでも撒いておけば良かったかもしれない。衣服を拭いて食堂に入る。窓越しにダケカンバの枝が風で大きく揺れているのが見えた。天気予報をまたチェックする。信濃大町方面は大雨注意報から警報に変わっていた。大糸線はすぐ止まってしまう路線という印象がある。帰りの交通手段を考える。ともあれ身体を動かしたのでお腹も空いた。食堂で朝弁を広げる。山荘のスタッフが温かいお茶と味噌汁を出してくれた。心遣いが沁みる。お弁当はおにぎりが2つ、おかず付き。ブリの照り焼き、昆布、豆の甘露煮、ウインナー、春巻、卵焼き。小さなパックによくこれだけ詰められたものだと感心する。箸でブリを取り上げると下から肉団子が出てきてとても得した気分になる。おにぎりは梅と野沢菜のふりかけをまぶしたものでおかずを邪魔をしなかった。予想外に卵焼きがうまい。この山荘はごはん目当てきても良い気がしてきた。贅沢を言えばコンビニのおにぎりでなければもっと良い。
昨晩、同宿した女性たちはリフトが動くとすぐに下山していった。今日は里山を登る予定だったが取りやめたようだ。私もリフトが動いているうちに下山することにした。首に手拭いを巻きまだ乾かない雨具を身につける。動けないリフトでの移動は寒く感じる。レインウェアのポケットにしまったチケットは乗り終える頃には濡れそぼりぼろぼろになってしまった。
八方バスターミナルに9時40分に到着するがバスは11時5分までなかった。はす向かいの温泉に入り時間を潰す。帰路は長野まで出て新幹線を使うことにした。乗り換え時間があまりないので1時間後の便を想定したが予定時刻より10分ほど早くバスが到着したので待ち時間なしで12時24分のはくたかに乗れた。車内でカメラの写真を見てみると水滴が写り込んでほぼダメだった。ウスユキソウもぼやけてカメラに収まっている。後で調べてみたらハッポウウスユキソウは蛇紋岩の露出した場所に咲くそうだ。蛇紋岩は黒く白い筋の入った岩肌である。撮影地はそんな岩はなかったと記憶しているのでミネウスユキソウだと想定された。
唐松岳の山頂は踏めなかったがまた来れば良い。7月にはまとまった休みも取れそうなので唐松岳から鹿島槍ヶ岳まで縦走する計画を立ててみる。次に八方尾根に来た時はどんな花が咲いているのか楽しみで仕様がない。
終
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